津家庭裁判所 事件番号不詳 判決
本籍 名張市榊町番地不詳
住居 亀山市東町七百七十六番地
待合業 元木ム子 明治四十二年三月三日生
主文
被告人を罰金壱万円に処する。
被告人において右罰金を完納することができない場合は金参百円を壱日に換算した期間被告人を労役場に留置する。
訴訟費用は全部被告人の負担とする。
理由
被告人は肩書住居において待合営業を営むものであるが昭和二十九年四月中頃○本○美(昭和十二年十月二十八日生)を雇入れるにあたり同女が十八歳未満であるかどうかを戸籍抄本を取寄せる等の方法で確知すべきに拘らず不注意により同女が十八歳未満であることを知らずして同月十六日頃より同年六月十一日頃までの間被告人方において不特定多数の人を相手に一回代金四百五十円乃至七百五十円位で同女に売淫行為をなさしめたものである。
右事実は
一、証人原田綱橋の当公廷における供述
一、証人元木竹太郎の当公廷における供述
一、証人竹口政蔵の当公廷における供述
一、検察官に対する中村雪子の供述調書謄本の記載
一、司法巡査に対する中岡重一の供述調書抄本の記載
一、検察官に対する右同人の供述調書謄本の記載
一、司法巡査に対する佐々木幸子の供述調書抄本の記載
一、司法警察員に対する右同人の供述調書謄本の記載
一、検察官に対する佐々木幸子こと品川ユキの供述調書謄本の記載
一、司法警察員に対する○本○美の供述調書の記載
一、検察官に対する右同人の供述調書謄本の記載
一、司法警察員に対する被告人の供述調書の記載
一、検察官に対する被告人の供述調書の記載
一、当公廷における被告人の供述
一、倉敷市長認証に係る○本○美の戸籍抄本の記載
一、領置に係る○本○美の身許書(証第一号)の記載
一、領置に係る戸籍抄本請求書(証第二号)の記載
を綜合してこれを認める
判示事実は児童福祉法第三十四条第一項第五号同法第六十条第一項第三項本文に該当するところ被告人に対してはその所定刑中罰金刑を選択しその所定金額範囲内で被告人を罰金壱万円に処し罰金を完納することができないときは刑法第十八条第一項に則り金参百円を一日に換算した期間被告人を労役場に留置し訴訟費用は刑事訴訟法第百八十一条第一項に基き全部被告人の負担とする。
なお弁護人は○本○美が満十八歳に達していなかつたことを被告人が知らなかつたことに過失がないから無罪である旨を主張するから按ずるに凡そ接客婦として働かんとする女は料理店、カフエー等において働いた経験を有するもの多く○本○美もその例に漏れず被告人方の接客婦となるまでに松永市の粟村という飮食店の女中をしていたものであつてかかる女性は概して実際の年令よりも年上に見えるものであり待合業を多年営む被告人はかかる事情を熟知している筈であるから仮令○本○美が年令不相応の姿態を有し一見十八歳以上と思われ且つまた同女が十八を超えている旨を告げそれを裏付けるための仲介人作成に係る書面があつても直ちにそれを措信することなく速かに同女の戸籍謄本或いは抄本等年令を確証するに足る文書を取るのが接客業者としての普通に用いる注意義務といわねばならない殊に被告人は以前にも他人の改竄した転出証明書を軽信し十八歳未満の婦女を十八以上のものと誤信して淫行せしめた罪により当裁判所において罰金刑に処せられた苦い経験を有するものであるから前車の轍を踏まないように年令調査につき細心の注意と努力を吝しむべきでないのに○本○美の姿態が年令以上に熟していたことや同女の詐言及び一私人の作成した○本○美が十八歳を超ゆる旨の一片の書面等を慢然信じて同女を淫行せしめたことは接客業者として不注意の譏を免れないよつて同女が満十八歳に達していなかつたことを被告人が知らなかつたことに過失ありというべきであるから弁護人の前記主張は採用することができないよつて主文のとおり判決する。
(裁判官 浜田盛十)